【2026年最新】中小企業が使える賃上げ支援制度を総整理!──補助金・税制など経営者目線で解説

「賃上げをしなければ人が採れない、しかし原資がない」。
多くの中小企業経営者が直面しているこのジレンマに対し、国は2026年も多角的な支援策を打ち出しています。しかし、制度は複雑で、「何が使えるのか」が見えにくいのが現状です。
本記事では、甘い言葉ではなく「経営の現実」に即して、本当に使える制度とその落とし穴について解説します。

1. 導入:なぜ今、賃上げなのか?

2026年現在、中小企業を取り巻く環境は「待ったなし」の状況です。政府は「構造的な賃上げ」を最重要課題に掲げ、最低賃金の継続的な引き上げを進めています。

背景にあるのは、深刻な人手不足物価高騰です。
もはや「賃上げ」は福利厚生ではなく、「事業継続のための必須条件」と言っても過言ではありません。人を確保できなければ、黒字であっても事業を畳まざるを得ない時代に入っています。

国の方針は明確です。「賃上げできる企業には手厚く支援し、そうでない企業は淘汰されてもやむを得ない」という厳しいシグナルを含んでいます。だからこそ、今ある支援制度を最大限に活用し、賃上げ可能な体質へと変革する必要があります。

2. 【誤解を解く】補助金・助成金の本質

制度の解説に入る前に、経営者の皆様に必ず認識いただきたいことがあります。それは、「補助金・助成金は、もらえるお金ではない」ということです。

経営者が陥りやすい3つの誤解

  1. 「申請すればもらえる」わけではない
    特に補助金はコンテストです。採択率は50%程度になることも多く、優れた事業計画がなければ箸にも棒にも掛かりません。
  2. 「先にお金が入る」わけではない
    基本的に「後払い(精算払い)」です。設備投資などの資金は、まず自社で調達(融資など)し、支払いを済ませた後、検査を経てようやく入金されます。キャッシュフローには十分な注意が必要です。
  3. 「何に使ってもいい」わけではない
    目的外使用は厳禁です。数年間にわたる報告義務があり、不正や要件未達があれば「全額返還」のリスクも伴います。

補助金は、あくまで「自腹を切ってでもやりたい事業投資」を国が後押ししてくれる制度です。「補助金が出るならやるか」という程度の動機では、採択されてもその後の事務負担や事業遂行で苦しむことになります。

3. 2026年の支援策全体像

中小企業の賃上げを支える施策は、大きく分けて以下の3つの柱で構成されています。これらを自社の状況に合わせて組み合わせることが重要です。

区分主な制度特徴
① 税制優遇賃上げ促進税制賃上げ額の一部を法人税から控除。黒字企業には即効性があるが、赤字企業にはメリットが薄い。
② 設備投資支援(補助金)ものづくり補助金デジタル化・AI導入補助金(IT導入補助金)省力化投資補助金業務改善助成金生産性を上げて賃上げ原資を作るための投資を補助。「賃上げ」が申請の必須要件や加点要素になっている。
③ 雇用環境整備(助成金)キャリアアップ助成金人材開発支援助成金人を育て、定着させるための費用を助成。要件を満たせば受給しやすいが、労働関係法令の遵守が絶対条件。

加えて、2026年1月には「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」が施行され、価格転嫁(値上げ)を通じた原資確保の環境整備が進められています。

4. 制度別詳細解説

青色申告を行っている中小企業が対象です。最もシンプルかつ強力な制度ですが、あくまで「税額控除」なので、法人税を納めている(利益が出ている)企業でなければ恩恵を受けられません。

  • 基本要件:給与等の支給総額を前年度比で1.5%以上増加させること。
  • 効果:増加額の15%を法人税額から控除できます。
  • 上乗せ措置:さらに、給与総額を2.5%以上増加させたり、教育訓練費を増やしたりすることで、最大45%まで控除率がアップします。
  • 繰越控除:赤字で控除しきれなかった分を翌年度以降に繰り越せる措置(5年間)もありますが、将来の黒字化計画が必要です。

【ものづくり補助金】「革新性」の壁は高い

中小企業支援の王道ですが、最もハードルが高い制度でもあります。単に「新しい機械を入れたい」では採択されません。

  • 目的:革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスの抜本的改善。
  • 「革新的」の定義:自社にとって新しいだけでなく、地域や業界にとっても先進的な取り組みである必要があります。単なる老朽化設備の更新は対象外です。
  • 補助額:通常枠で最大1,000万円程度(大幅賃上げ枠などで最大4,000万円等の上乗せあり)。
  • 採択率:概ね50%前後。専門家とともに数ヶ月かけて事業計画書を練り上げる必要があります。
  • 注意点:「賃上げ計画」の実行が必須です。計画通りに給与を上げられなかった場合、補助金の返還を求められる可能性があります。

【業務改善助成金】使い勝手の良い「ミニものづくり補助金」

事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、かつ設備投資を行った場合に支給されます。ものづくり補助金ほどの「革新性」は求められないため、現場改善レベルの投資に適しています。

  • 要件:事業場内最低賃金を30円以上引き上げる + 生産性向上に資する設備投資等を行う。
  • 対象経費:機械装置、POSレジ、業務用車両、コンサルティング費用など幅広いです。
  • 助成率:最大90%(賃金額や引き上げ額による)。
  • 注意点:「賃金を引き上げた」という実績が必要です。一時的な手当ではなく、基本給等のベースアップが求められます。

【デジタル化・AI導入補助金(IT導入補助金)】システム化で生産性を上げる

業務効率化のためのソフトウェアやクラウドサービスの導入に使えます。

  • 要件:事務局に登録されたITツールの中から選定する必要があります。「自社専用にゼロから開発するシステム」は対象外となるケースが多いです。
  • インボイス対応:会計ソフトや受発注ソフトなど、インボイス制度対応のための導入枠(インボイス枠)が設けられており、PCやタブレット等のハードウェア購入費も一部補助対象になります。

【省力化投資補助金】人手不足対策の切り札

人手不足解消のために、「カタログ」に掲載された汎用的な省力化設備(清掃ロボット、配膳ロボット、券売機など)を導入する場合に利用できる、簡易で迅速な補助金です。

  • 特徴:製品カタログから選ぶだけなので、申請の手間が比較的少ないです。
  • 目的:人が行っていた作業を機械に置き換え、労働生産性を高めること。

【キャリアアップ助成金(正社員化コース)】

有期雇用のパートやアルバイトを正規雇用(正社員)に転換する場合に助成されます。

  • 助成額:1人あたり最大80万円(諸条件あり)。
  • 要件:正社員転換後の賃金を3%以上増額すること。
  • 注意点:就業規則の整備が必須です。また、雇入れから転換までの期間など、厳密なタイムスケジュール管理が求められます。

5. 価格転嫁環境の整備(取適法)

どれだけ補助金を使っても、本業で利益が出なければ持続的な賃上げは不可能です。そのために重要なのが「価格転嫁」です。

2026年1月施行の「中小受託取引適正化法(取適法)」は、従来の下請法を強化・再編したものです。

協議の義務化:コスト上昇に基づく価格交渉の申し入れに対し、発注者は協議に応じる義務があります。無視すれば法違反のリスクが生じます。

労務費の転嫁:「原材料費は認めるが、人件費アップ分は認めない」という発注者の理屈は通じにくくなっています。

価格交渉促進月間:毎年3月と9月は国を挙げての集中期間です。このタイミングに合わせて、根拠資料(労務費上昇のデータ等)を持って交渉に臨むことが推奨されます。

6. 実践のステップ:まずは自社診断から

「どの補助金が使えるか?」から入ると失敗します。「自社は何をしたいのか?」から始めてください。

推奨ステップ

  1. 自社診断(現状把握)
    自社の課題は何か?(設備が古い? 人が定着しない? DXが遅れている?)
    賃上げ余力はどれくらいあるか?
  2. 解決策の立案と制度のマッチング
    課題解決のために必要な投資をリストアップし、それに合致する補助金を探す。
    例:「手作業の梱包を自動化したい」→ 省力化投資補助金 or ものづくり補助金
  3. 専門家への相談
    事業計画の策定はプロの視点が不可欠です。
    「よろず支援拠点」(国の無料相談所)や、商工会議所・商工会を積極的に活用してください。銀行や顧問税理士に相談するのも一手です。
  4. 申請準備
    GビズIDプライムアカウントの取得(数週間かかります)や、納税証明書などの書類準備。締め切りギリギリでは間に合いません。

7. よくある失敗パターン:ここに注意!

多くの経営者が陥りがちな「落とし穴」を紹介します。

①「とりあえず申請」の罠

補助金をもらうために、不要な高額設備を買ってしまうケースです。「1,000万円の機械が半額の500万円で買える!」と喜びますが、残りの500万円は借金です。その機械が利益を生まなければ、単にキャッシュフローを悪化させるだけです。

②「丸投げ」の失敗

「着手金無料、成功報酬のみ」を謳う悪質なコンサルタントにすべて丸投げし、実態と乖離した事業計画書で採択されてしまうケースです。採択後の交付申請や実績報告でつじつまが合わなくなり、最悪の場合、補助金が下りないだけでなく、不正受給を疑われるリスクもあります。事業計画は社長自身が理解し、語れるものでなくてはなりません。

③ 要件未達による返還

特に賃上げ要件がある補助金では、「業績が悪化したので賃上げできませんでした」という言い訳が通用しない場合があります。
計画未達の場合、補助金の返還を求められる規定があるか、必ず公募要領の「返還規定」を確認してください。

8. まとめ:賃上げは「コスト」ではなく「投資」である

ここまで厳しい現実もお伝えしてきましたが、国の支援制度が充実していることは間違いありません。

これからの経営において、賃上げは単なるコスト増ではありません。
「より付加価値の高い仕事ができる人材を確保し、定着させるための投資」です。

補助金や助成金は、その投資リスクを軽減するための「手段」に過ぎません。
目的はあくまで、御社の経営力を高め、社員と会社が共に豊かになることです。
「制度ありき」ではなく、「事業ありき」で。

2026年、本気で会社を変えようとする経営者にとって、これらの支援策は強力な武器となるはずです。